久しぶりの地元のカフェ。そして久しぶりに深煎を飲む。
20代の頃、小金井の居酒屋でm生まれて初めて日本酒を飲んだ。「辛口ください」と注文して、咽喉にお湿りをくれてやったのを覚えている。理由はわからないけど、それがかっこいいのだと思っていたのだろう。
同じように、最初のコーヒーは「深煎がいいです」だった。コーヒーを最も特徴づけるのは深煎だと思っていた。そのあと、次第に浅煎りの繊細な味の広がりに魅了されていくのだけれども、深煎の力強さは今でも好きだ。
インディアAPAA、「エーピーダブルエー」と読む。最初のAは「アラビカ種」のこと。コーヒーの品種の主なものはアラビカ種・ロブスタ種・リベリカ種の3つだ。インドではロブスタ種が多く栽培されているけれども、今日飲んだコーヒーはエチオピア原産のアラビカ種なのだ。「PAA」はプランテーション(農場)のAAランクの意味で、あわせるとアラビカ種で最高評価の農場で栽培されたコーヒー豆だということだ。
(コーヒーの品種については、このサイトがよくまとまっていてわかりやすい)
コーヒーの基礎知識 | 三本珈琲株式会社 コーヒーを、どこまでも。
飲む前に香る。香りは高い。引っかかりのない豆の香りが鼻孔を上がり、抜けてゆく。口に含むと、香りの重厚さよりも軽やかだが、後半味わいの厚みが広がる。この変化がダイナミックで、なめらかで力強く、それが描く曲線は美しい。
ナッティな香りがあって、ダーク・チョコレートと合わせたくなる。念入りに煮詰めた甘めのクランベリー・ジャムもよいだろう。熟成した甘味と酸味のバランスがよいレーズンをダーク・チョコレートでコーティングしたものとも並べたい。このコーヒーの、存在感があるけれども主張しすぎない酸味と収斂味、シンプルで力強い苦味の前に、いろいろな食べ物が頭に浮かぶのだ。軽やかな焙煎香・コク・苦味で構成される余韻は長い。
少し冷めると、顔が変わる。苦味と酸味がより明確になる。苦味は通奏低音のようにずっと存在して、酸味がその周りを踊っている。柑橘のニュアンスと焙煎香りが肩を並べる。
カフェでコーヒーを出されたときは、すぐにいただくのがよい。最適な温度で提供してくれるからだ(もしかすると近年は、スマホで写真を取る時間を計算してちょっとだけ熱めにしてくれているのかもしれない)。でも、少し冷めるのを待つと、味わいがよく見えるようになる。その間、一人でいるときは思索にふけったり、誰かといるときは静かに話したりする。そうやって心が鎮まったとき、コーヒーもまた、落ち着いているのだ。
2021年3月 カフェ・デ・コラソン(京都)にて