古材のテーブルに配膳されたコーヒーとケーキは、静物画のように調和がとれている。それぞれの器の存在感に、食べ物と飲み物が溶け込んでいる。しばし鑑賞する。
クランベリー・オレンジ・ピスタチオ入りのガトーショコラは、なめらかな生地の中にフルーツの酸味とピスタチオの青さ、それらの食感が合わさってストーリーを作る。チョコレートの香りは控えめで、全体のハーモニーを大切にしているのが感じられる。
と思ってしばらくしてケーキの温度が上がってきたら、チョコレートの香りが少し出てきた。ちょっと待った方がいいなあ。クランベリーの酸味と香りも顔を出す。これがまたチョコレートの風味とよく合うのだ。
この店のオリジナルブレンドコーヒーは、しっかりとした、それでいて落ち着いた焙煎香を鼻で感じた後はまろやかな口当たり。そのあとぎゅっと力強い重厚さがやってくる。くすんだ酸味が幕を引きながら余韻となる。
ガトーショコラとコーヒーはよく合う。力強さが同じ方向を向いている。コーヒーの焙煎香、なめらかなガトーショコラの生地、ベリーの酸味、すべてが渾然一体となっている。なのに、一つひとつが独立していて、一つの音楽が奏でられているようだ。
古材と古い家具に囲まれたこのお店の空気にも、溶け込んでいる。ひとりでゆっくり楽しみたい雰囲気と味わいである。
2021年3月 喫茶 古良慕(こらぼ・滋賀県高島市)にて