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「日本酒テロワールキャノンボール」で日本酒の地域性を探る

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

日本酒コンシェルジュ通信が2017年10月から開催しています「日本酒テロワールキャノンボール(現 Local Saké Cannonball ローカル・サケ・キャノンボール)」。地酒と向き合い、日本酒の地域性を探っていくという勉強会スタイルのイベントです。

いままで4回のイベントを開催し、おぼろげにその県の特徴、酒質や酒造りの方向性が見えてきました。しかしまだ統合の段階には達していません。このプロジェクトを続けていきながら少しずつ地酒に向き合いながら、地域性を考えて行きます。

この記事では、今まで開催した4回のイベントで見えてきたことを紹介します。

きっかけは「テロワール」という言葉

きっかけは、日本ソムリエ協会のSAKE DIPLOMAの教科書にあった「テロワール」という言葉。

これについては、「日本酒には(ワインのような)テロワールはない」「いや、ある。テロワールは水と米」「土壌よりも技」など、いろいろな意見が見られます。

でも、私たちははたして、そのように言い切ることができるほど酒を飲んでいるか? ならば、全国の地酒と向き合い、地域性を感じ、考え抜くことで日本酒のテロワール・日本酒の地域性を探っていきたい、と考えるようになりました。

高校生ファーマー 堀口くん

仮説「日本酒には広義のテロワールがある」

そして、このような仮説をたてました。

水や酒米から直接影響を受けるテロワール的な要素は基底にある。しかし、それを超える大きさで、「技」や酒質の「方向性」に地域性がある。これに影響を与えているのは、その土地の食文化、すなわち消費者や造り手が普段どのようなものを食べてきたか、食べているかという点にある。

テロワール(土壌)よりもより広義の、酒造りのコンセプトの地域性までも含むテロワールがそれぞれの地域にあるという仮説です。

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イベントの構成

このようにして始まった「日本酒テロワールキャノンボール」のは以下のような進行で行っています。

  • 対象地域のテロワールについてレクチャー
  • テイスティング
    • 各自テイスティング
    • テイスティング結果を発表
  • ディスカッション「この地域のテロワールとは何か?」

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まず、対象地域のテロワールについての説明。こちらは日本酒コンシェルジュPonが事前にその地域の食文化・水・酒米・酒造業・県の取り組みなどについて綿密に調べ上げてレクチャーしています。

その後、その地域の日本酒を4から6本。ブラインドでテイスティングします。

タイマーを使って3分間を計り、私語厳禁でテイスティングを行います。テイスティングのスタイルやボキャブラリーは自由です。

その後、一人ひとり、その酒と向き合って感じたことを発表します。どういう印象だったか、どんな香りや味を感じたか。心と頭で感じたことを交換します。

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これを本数分、常温と燗酒で繰り返し、最後にディスカッションをします。

「はたしてこの県や地域にテロワール・地域性はあるのか?」「あるとしたらそれは何か?」を議論します。

このスタイルは会を重ねながら試行錯誤で確立していきました。周到な準備をせずにプロトタイプイベントから始めたことが、結果的にイベントの構成の質を上げる事に繋がったと考えています。

3回開催して見えてきたこと

01 石川県 ぼんやりと共通する方向性

10月に「01 石川県」をプロトタイプとして実施。金沢、白山、奥能登と3つの地域の地酒と向き合いました。

北陸12号、石川門という石川県でよく使われる酒米の特徴をどのように酒に反映させているかという造りの方向性と、どれも燗酒にしたくなるという素朴な酒質の方向性の緩やかな一致。

これらから、テロワールとまでは行かないけれども、石川県の酒蔵の「造りの方向性」にどこか共通するところがあるのではないかという議論になりました。

その中でも福光屋だけが、少し都会を向いた垢抜けた酒質だと感じましたが、それでもなんとなく「石川県らしさ」を感じるという意見が多く出ました。

02 福岡県 3つの潮流

2回目の福岡県では、ピックアップした6蔵の酒質の傾向は大きく2つに分かれました。伝統的な福岡らしい甘味や旨味のしっかりした酒と、軽やかで香り高く都会を向いた酒です。日本酒バーのマスターを20年間勤めてきた方にも参加いただき、20年前、30年前の福岡の酒の味を指摘していただいたことが議論の起爆剤になりました。都会を向いたお酒は、もはやこれがどの地方の酒かを言い当てることができない香味でした。

もうひとつ新しい潮流を感じたのが、焼酎用の黒麹を使って醸された日本酒。かつては酒処だった福岡。焼酎が席巻すると、ライトであっさりの焼酎、甘くてどっしりの日本酒という住み分けがされていったといわれています。その中で、その蔵は黒麹が出す爽やかなクエン酸の酸味を日本酒に入れることで、新しい軸を作り出そうとしているのではないか、と感じました。

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03 福井県 地味らしさがやさしい

3回目の福井県からは、酒瓶を新聞紙で包み銘柄がわからないようにテイスティングをしました。銘柄名やラベルデザインから受ける先入観を排するためです。

この日は若狭の「鯖のへしこ」とも合わせながらのテイスティングでした。福井県内のいろいろな地方の酒、いろいろな米を選びました。

「全体的に米々しさとやさしさがある」「福井らしい地味さで都会向けの逆を行っている」「にしんずしや飯寿司と合いそう」といった意見が飛び交いました。

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04 香川県 個性爆発、でも同じ部活

4回目の香川県は、県内で現在製造している6蔵すべての日本酒と向き合いました。

それぞれの蔵に強い個性がありました。「これらの蔵が生き残った理由がわかる気がする」とのコメントも。2つの蔵のお酒で、乳酸感と米を感じるクラシックな味わいという共通性がありながらも、垢抜けていたり、伝統的だったりの違いも見られました。

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テイスティングコメントをフラットに交換することの素晴らしさ

「日本酒テロワールキャノンボール」を4回開催してわかったことは、「テイスティングコメントをフラットに交換することの効果」でした。

日本酒が好きで飲んでいる方から、毎日テイスティングをしてその感性を磨いている方、日本酒を提供する立場の方など、さまざまなバックグラウンドを持った方々に参加していただいています。

参加者のコメントはそれぞれ違います。注目するポイントや例える香りは多様です。酒の評価や感想が一致することもあれば、まったく分かれてしまうこともあります。

イベント中に心がけていたことは、参加者のコメントがフラットに評価されるように、経験の多い人、少ない人、ボキャブラリーの多い人、少ない人を分け隔てることなくフラットにコメントを言い合えるような空気を作ることです。

これがうまく行ったのは、私たちのファシリテーションというよりも、参加者がそれぞれ真剣に日本酒に向き合い、他者を尊重する姿勢を持っていたからに他なりません。

この素晴らしい空気感の中で、自分の味覚を相対化すること、自分が気づかなかったことを知ること、他者がどのように感じたかを受け入れること、他者の感性を知ろうとすること、といった「味覚の交流」「嗜好の交流」が生まれました。参加者も私たち運営者も同じように、とても意義のある体験ができたのです。

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課題

料理とのペアリング

地酒に向き合うことはその地方の食文化、その地方そのものに向き合うことでもあります。その土地に赴いて風土と気候を感じ地元の食材を食べながら地酒を飲むことが理想的です。

「日本酒テロワールキャノンボール」では、福井県の回でのへしこ、香川県の回でのしょうゆ豆など地元の食材をひとつだけとチーズ、ナッツ、ドライフルーツ、チョコレートなどのおつまみを合わせています。

今後、より深く料理と合わせることにも挑戦していきたいと考えています。食材の選び方では、「おみやげになるような名産がその土地でよく食べられているものか?」という疑問もあります。地元の方々が日常で口にしているものを選んでいきたいとも考えています。

都道府県=食文化の地域ではない

地酒・食文化という点でみると、一つの県が複数の地域に分かれるのが一般的です。それらの地域からなるべくまんべんなく地酒を選んでいますが、県単位ではなく県の中の食文化的地域にフォーカスして地酒に向き合う必要があるかもしれません。

日本酒にテロワールはあるか?

日本酒にテロワールはあるのか、日本酒の地域性とは何か? それはまだわかりません。「日本酒テロワールキャノンボール」の会を重ね、たくさんの参加者と議論し、考えてることで、それが見えてくると考えています。

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