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燗酒の「お風呂感」について〈盃のあいだ〉

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

燗酒を飲むとき、「お風呂感」を感じることがあります。寒い日に温かいお風呂に入って「気持ちいい〜〜」となるときの感覚です。冬だけでなく、夏に燗酒を飲むときにも感じます。

どんなときにお風呂感があるかというと、甘みや旨味がほどほどにあって、酸味が穏やかなお酒を40度から45度くらいの燗につけたときです。そして、米のニュアンスを感じる香りが主なときです。甘みが旨味がくっきりしていたり、酸味がぐっとボールドに来る酒の場合、お風呂感は余りありません。

酒の温度を上げていくと、体温に近い温度で甘味や旨味がもっとも強く感じられ、それ以降は感じ方が下がっていきます。36〜37度の人肌燗、ぬる燗がいちばん、甘み・旨味を強調することのできる温度帯です[1]が、40〜45度ではそれがすこし下がります。一番輝いているときからちょっと過ぎた感じが、奥ゆかしさや上品さを構成するのです。それに、この温度帯はたしかにお風呂の温度帯でもあるのです。

ちょっとピークを過ぎた甘味や旨味、気持ちいいと感じるお風呂と同じ温度帯。これが「お風呂感」の正体ではないでしょうか。

お吸い物にお風呂感がないのは、ちょっと温度が高いことと、旨味が立っているからかもしれません。でも、京都で懐石料理をいただいたときお風呂感のある汁物に出会ったことがあります。詳しくは覚えていませんが、次の機会には書き留めておくことにします。

プロの利き酒やテイスティングで「お風呂感がある」というコメントを書いたら、多分バツになるでしょう。表現が属人的すぎて、共通認識のあるボキャブラリーに含まれていないからです。

でも、ふだん一緒に飲んでいる人と話したり誰かに勧めたりするときは、こういう表現はどんどん使っていきたいです。大事にしていきたいですね。

「お風呂感」と言われて「何言ってるかわからない」と思っても、「ああ、この人はこの酒のこういう感じをお風呂っていうんだ」と捉えることで、その酒だけでなく、その酒について語った人のことも理解することになるからです。「その人の思うお風呂感」について考えたり思いを巡らすことで、その人の体験をなぞることにもなります。

僕が、お酒を媒介にしたコミュニケーションが文化的な行為だと思うのは、こういうことです。

今日も日本酒コンシェルジュ通信に来てくれてありがとうございます! あなたの言葉に乾杯!


  1. 上原浩『純米酒を極める』 p.74 ↩︎