/ 盃のあいだ

師匠と出会う酒場〈盃のあいだ〉

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

きょうは、日本酒の師匠についてお話しします。

ある酒場で日本酒に出会ったことをきっかけに日本酒の世界に傾倒することになるのですが、幸運だったのは、酒の師匠に出会えたことです。たくさんの師匠に日本酒の飲み方と楽しさを教わりました。酒場の店主や、酒販店、ソムリエ、酒造りに携わる方々[1]、そして酒飲みの先輩です。

最初に日本酒に出会った京都のお店では、店長さんが階段を一段ずつ登るように日本酒の世界に導いてくれました。カウンター席に座るたび、前に飲んだお酒を覚えていてくれていました。彼女は、おすすめされる酒を飲む私の反応を見逃しませんでした。

その頃は、無濾過生原酒の華やかで力強い味わいが好きでした。そういったお酒を出してくれていました。気がつくと、燗酒、熟成酒から酒造年度違いや同じスペックのタンク違いの飲み比べまで、少しずつ新しい世界に足を踏み入れていました。

毎回、少しずつ小さな一歩を重ね、ほろ酔いになって幸せな気分で帰途につくのです。

当時、日本酒についてほとんど何も知りませんでした。日本酒の本を読み始める前でした。だから、師匠の言葉を素直な心で受け止めることができました。

知識を学んだあとで体験を素直に受け止めるのは難しいことなのかもしれません。まっさらな状態でいい師匠の皆さんに出会えて幸運でした。

その後、いろいろな蔵を訪問して蔵元さんや造り手の方のお話を聞きました。テイスティング、造り、歴史、たくさんの本を読み漁りました。知識を持つことで、蔵見学で同じ話を聞いても受け止めるものが違います。知識を身に着け、自分の頭で考えることで、受け取る器を大きくすることができました。

体験や知識に対する素直さを失わないように心がけています。知識が増えると、どうしても視点が固まってしまう。「これはもう知っているから」とアンテナをおろしてしまう。でも、素直さを保っていれば、新しい出会いがあります。セレンディピティーは受けとめる心があってはじめて発生するのです。

これからお酒をもっと楽しみたいと思っている方は、ぜひあなたの師匠を見つけてください。相性が良くて、好みを押し付けず、知識をひけらかさず、ただあなたの興味の広がりをガイドする。そんないい師匠を見つけてください。酒場のカウンターの反対側にいるかも知れないし、同じ側にいるかも知れません。

そういえば、最近も大阪の酒場で燗酒でいい体験がありました。おすすめの燗酒を頼んだところ、最初ちょっとだけ冷で飲ませてくれます。弾ける酸味が白い波のように荒々しく、サーファーが中に入ってスイスイ進んでいるような大きな空洞が感じられました。その燗酒を飲んだらびっくり! 甘味と旨味が上がってその空洞を埋めることで、味わいが完成されました。

「この酒はどんな感じになるかな」と想像しながら待っていましたが、予想以上で驚きました。なるほど、燗付けを待っている間の演出でした。

今日も日本酒コンシェルジュ通信に来ていただきありがとうございます。あなたの師匠に乾杯!


  1. 僕の住む京都には伏見という酒処があり、酒造り関係者と街で出会うこと多くがあるのです。 ↩︎