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蕎麦屋で酒を飲みながらペアリングについて考える〈盃のあいだ nº21〉

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

蕎麦屋で酒を飲む。もちろん昼飲み。楽しい。地元の酒の純米吟醸、外ではあまり知られていない銘柄だ。とりたてて特徴はないが、きれいで引っかかりがない。蕎麦屋に最適。

まず、酒をひと舐め、口に入れる。体にしみわたるを待つ。五臓六腑に「これから酒を飲むんだ」とを知らせるのだ。

「男はつらいよ」で寅さんが満男に酒の飲み方を教えるシーンに感銘を受けてから、いつもこうやって飲んでいる。

いいか? まず、片手に杯を持つ。酒の香りを嗅ぐ。なっ?
酒の匂いが、鼻の芯にずーっとしみとおった頃、おもむろにひと口、飲む。
「さあ! お酒が入っていきますよ」ということを、五臓六腑に知らせてやる。な?
そこで、ここに出ているこの「つきだし」。これを舌の上にちょこっと載せる。
これで酒の味がぐーんとよくなるんだ。
それから、ちびり、ちびり。だんだん、酒の酔いが体にしみとおっていく

―「男はつらいよ ぼくの伯父さん」(1989年12月27日公開)[1]

今度はお酒を一口、じっくりと味わう。この酒と向き合う。それから、わさびの醤油漬けをちょっとだけ舌に乗せる。地元の食材だ。醤油のうま味、わさびの辛味。香りが広がりながら上っていく。その余韻に酒をあてがうと、酒のやさしさや甘味が強調される。酒が引き立つのだ。

部分を見ると、わさびの香りと酒の青い香りが一緒に踊ったり、醤油の塩味が酒の甘味を強調したり、いろいろなことが起きていて、相性のよさを構成しているだろう。

でも、大切なのは食べ物と酒の関係性なのだ。わさびの醤油漬けには酒を引き立てるという役割が与えられている。酒と料理のペアリングの伝統的なスタイル。同じように、料理を邪魔しない、料理を引き立てる酒の立ち位置もある。

ワインとガストロノミーの影響を受けたペアリングでも同様。何と何がどういう理由で合うかよりも、その相性を使って何を表現しようとしているのか、どのような歴史的スタイルを踏襲しているのか、を見る。料理と酒のペアリングを楽しむときは、その背景にある哲学に目を向けよう。

長野県松本市にて。

きょうも日本酒コンシェルジュ通信に来ていただき、ありがとうございます。昼酒ができる幸せに乾杯!


  1. 男はつらいよ ぼくの伯父さん. 山田洋次. 松竹. 1989年. ↩︎