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「飲まない」酒ツーリズム〈盃のあいだ nº22〉

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

「酒を飲まない酒ツーリズム」は成立する。3月に「発酵の里こうざき 酒蔵まつり」に参加してそう感じました。

このお祭りは、隣接する2つの酒蔵、寺田本家と鍋店の蔵開きを中心として、発酵食品や自然食品を中心とした200以上の出店、子どもも大人も楽しめるライブやショーなどが充実したお祭りです。地域の方のみならず、県外からも多くの参加者が訪れ、JRの特急の臨時列車が運行するほどです。

道に並んだ出店をまわったあと、多くの時間を寺田本家で過ごしました。ここで気がついたのは、「酒を飲む人も飲まない人も楽しんでいる」ということです。もちろん、お酒が飲めるブースはあります。でもそれ以外の催し物、音楽ライブや子どもが遊べるブース、コスメワークショップや蔵元さんのトークイベント、そしてまわりの発酵食品・自然食品ブースが充実していて、その調和の中に突出せずにお酒ブースがあるのです。

そして、他の蔵開きにありがちな、泥酔する人や必要以上にはしゃぐ人が見られませんでした。ぎゅうぎゅう詰めのときでもぶつかってくる人はいなくて、行列を乱す人もいませんでした。こんな行儀のいい蔵開きはなかなかありません。

酒を飲む人も飲まない人も楽しんでいる。この空気感に酔いしれました。トークイベントで蔵元さんやコミュニティ運営の方の話を聞いて、この蔵開きにはコミュニティーが存在している、参加者はお客さんではなくてコミュニティの一員、つまりこの蔵開きや空気感を一緒に作っているのだと理解しました。

先代の蔵元さんの時代から蔵の哲学や活動に賛同して集まってきた人たちが作り上げ、育んできたコミュニティです。代替わりのときに人がかなり入れ替わったとのことですが、酒蔵を中心としたコミュニティを形成して保つこと自体は受け継がれています。

参加者の多くは、全国からこの蔵開き・コミュニティを目指して旅をしてきました。旅の魅力は、その土地や風土、そこの食べ物・文化・人を感じることです。世界中の情報が簡単に手に入る時代だからこそ、旅の価値があるのです。そして旅で感じたことは自分の一部になり、旅した自分もその土地の一部となります。

寺田本家の蔵開きの空気を体験して、酒ツーリズムの本質は酒を飲むことではなく、酒や酒蔵を核とした文化を感じることだと実感しました。蔵見学をして、試飲して、酒を買って帰る。商品のPRや売上をベンチマークとしたこのようなレガシーな酒ツーリズムは、表面でしかありません。

酒蔵を核とした地域コミュニティ。寺田本家のように地域を超えたコミュニティもまた、土地に根ざしています。土地を訪れることで、そのコミュニティのなかで酒文化・食文化・地域文化を感じる。酒ツーリズムに参加することは、コミュニティの中に入ること。中に入ってともに酒文化を受け継ぎ、伝え、新たに創り出す。そして、酒を飲まなくても、酒文化を知り、誇りを持つことができる。これこそが酒ツーリズムの本質なのです。

きょうも日本酒コンシェルジュ通信に来ていただき、ありがとうございます。酒文化に乾杯!