/ 盃のあいだ

心で飲む酒〈盃のあいだ nº23〉

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

昨夜、久しぶりに心で酒を飲みました。試飲会でもなく、イベントでもなく、テイスティング・ワークショップでもなく、プライベートで。とてもリラックスして、純粋に楽しむことができました。

そして気が付きました。「ああ、ぼくはいま、日本酒のおいしさに出会った時と同じ感覚で酒を飲んでいる」と。

8年ほど前に日本酒に出会ってから、造り手の方の話を聞いたり、本を読んだりして勉強を重ねてきました。酒造りのこと、酒造技術のこと、歴史のこと、いろいろな知識をインプットしました。こうすると知れば知るほどわからないことが出てくる状況になりますが、もっと知りたいという好奇心は衰えることはありません。このように、酒友と語ったり一人で酒について考えたりする日々が続きました。

気がつくと、酒を「頭で飲む」ようになってきました。一口飲んで、「原料米はなんだろう?」とか「なるほど、この酵母を使っているのか」などと考えながら飲むようになりました。オタクの飲み方です。

テイスティングについても同様でした。口当たり・味・香り・後口を分析的にとらえて、それをテイスティングとしていました。テイスティングで行き詰まった時、ぼくの中のブルース・リーが “Don’t think, feel!” と叫ぶことが幾度もありましたが、それをすぐに体現することはできませんでした。

そういった飲み方やテイスティングを重ねていたある時、突然、心で酒を飲む事ができるようになりました。なぜなのかはわかりません。何がきっかけになったのかはわかりません。とにかく、心で酒を飲む精神状態になったのです。

今までテイスティングを続けてきたこと、酒友たちと対話しながら飲んできたこと、また、それらを通じて考えたことを言葉にして発表する機会を幾度もいただいたこと、そういったことの積み重ねが臨界点に達したのでしょう。

素直な気持ちで酒に向き合い、味わう。スペックではなく酒そのものを通して造り手や米農家と対話する。素直な気持を保つのはとても難しいことです。でも、どんな素晴らしい酒でも、それを心の器の大きさがなければ受け止めることはできないのです。

いま、一つの小さな山に登った時の気持ちのよさがあります。はじめて日本酒を飲んだあの日と同じように酒を飲んでいますが、階段を登ったからこそ同じ位置にいるのです。人生は螺旋階段。そして、まだ登らぬ山が見えます。

きょうも日本酒コンシェルジュ通信に来ていただき、ありがとうございます。心で飲む酒に乾杯!