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曲がり角にきた蔵開き〈盃のあいだ nº25〉

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

日本酒蔵の蔵開き、最近とても増えました。日程が重なって、どこを選ぶかを考えなくてはならないほど増えましたね。今日は、「蔵開き」が転換期に来ているのではないかというお話をします。

たくさんの蔵が蔵開きをするようになったのは、今から15年くらい前の焼酎ブームの頃だという話を聞きました。日本酒消費の低迷を乗り越えるための取り組みの一つでした。それまでは「観光蔵」と呼ばれる、見学コースを作ってバスも乗り入れるようにしたところでしか、一般の人が訪問したり見学したりができませんでした。

蔵開きで消費者と直接話し、彼らの考えていることや感じていることを知るとともに、製造や販売のモチベーションにも繋がると、そのメリットを語る酒蔵の方は多いです。

同時に、ここ2、3年でよく耳にするのは、蔵開きやイベントにある2つの課題です。一つは、いつも同じ人が参加していて広がりがないこと、もう一つはマナーの悪い参加者がいることです。

今年参加した複数の蔵元さんが共同開催する日本酒イベントでは、マナーのよくない参加者(会場にキャンプ用の椅子を持ち込んで寝る、譲り合いの精神に程遠い場所取り、泥酔して他人に絡む、酒を注ぐ蔵の方と言葉を交わさずに飲むだけ)を目の当たりにして衝撃を受けました。

また、訪問した酒蔵で「うちは蔵開きをやめました」という話を聞くこともあります。マナーの悪い参加者のために、他の参加者が不快な思いをすることが続いて、なんのために蔵開きをするのかを再考した結果、やめることにしたそうです。

一度始めたイベントをやめるのには勇気がいるし、お客さんと接する機会も減るでしょう。それでもそのように決断したのは、もっと大切なものが失われようとしているからなのではないでしょうか。

造り手と飲み手の関係はフラットです。対等な関係で互いに尊敬し合うことで、両者のつながりがつくられ、熟成されます。お客様と製造者という関係性の時代は終わっています。

フラットだからこそ、マナーの悪い「お客様」は出禁にすべきです。対等な関係性の中では行動規範が共通認識にあることが必要です。「お客様だから少々のことは目をつぶる」ことは、せっかく築いた造り手と飲み手の関係性を壊します。

そういうことに目をつぶってきたのは日本酒の消費が低迷していて、それでもお客さん、という事情があったでしょう。だから、いま売れてきている酒蔵の中には蔵開きをやめる動きも見られるのだと思います。そこまでして飲み手に合わせる必要がない、と。

むしろ、低迷しているときこそ、造り手と飲み手のコミュニティーの行動規範を大切にすべきです。そして、売れてきたら余力を活かして、より良質なコミュニティーづくりに取り組むのがよいのではないか、と考えます。(「飲まない」酒ツーリズム〈盃のあいだ nº22〉で言及した、寺田本家の蔵開きが良いコミュニティーの形成に成功している例です)

製造者と消費者という関係性から、造り手と飲み手のフラットな関係性が本質的になっていく時代。日本酒業界だけでなく、すべての業界でグローバルに起こっていることだと感じています。飲み手として、その意識を持って行動していきたい、と思いました。

きょうも日本酒コンシェルジュ通信に来ていただき、ありがとうございます。酒の輪に乾杯!