感じろ! それから考えろ! スローなテイスティングのすすめ

失われた感性

何も日本酒のことを知らないときから6年間続けてきた日本酒テイスティングノート。最近これを振り返って、「できるようになったこともあるけど、忘れてしまったこともあるのではないか?」と思うようになりました。

酒を飲んで、心で感じたことを書くこと、分析的に香味を記述すること。どちらがより良いのでしょうか?

前よりも少しだけ様々な香りや味が分かるようになったけれど、何も知らなかった時の感性を失ってしまったのではないか? そのように感じてしまうことがあります。

(これについて、私のテイスティングノートの変遷「英勲 やどりぎ」の例で考えました。感性の表現と分析の表現、それぞれの役割について考察しています)

テイスティングと恋愛相談のフージョン

そんなある夜、日本酒コンシェルジュ仲間と日本酒バーで語り合っていると、カウンターにいた別のお客さんから恋愛相談を受けることになりました。

右耳でテイスティング、左耳で恋愛相談。聖徳太子もびっくり。バーカウンターでこんなに頭を使ったのははじめてかもしれません。

ひととおり話を聞いたあと、というか話を聞いている途中から、答えは明確でした。

「男を貯金額で判断するな! スペックよりも感覚を信じろ!」とストレートなアドバイスをしているうちに、さっきまでの「感性的・包括的なテイスティング」か「分析的・記述的なテイスティング」か、というテイスティングの議論と混じり合い、フュージョン。

ここで皆が同時に思い浮かんだのがブルース・リーの名言でした。

Don’t think! Feel!(考えるな! 感じろ!)

でした。

そうだ、テイスティングも男女関係も、「考えるな! 感じろ!」なんだ!

そして、恋愛相談の方は全会一致で「結婚すべし」というとてもポジティブでハッピーな結果となりました。相談いただいた方からは、日本酒を一杯、ごちそうになりました。

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本当に旨いから、心で感じる

その後、テイスティングを語り合った日本酒コンシェルジュ仲間のツイートに。

考えるな感じろとは言うけど、感じなかったから考えてるんだ。って気がついた。考える前に感じる酒がいわば真に旨い酒。

12:05 - 2017年8月24日

なるほど!

旨い酒なら「これは!」と心に感じるものがあって、それから分析が始まります。そうでなければ、感情の起伏がもたらされることなく、「はて、これはなんだろう」とか、「さて、分析しよっか」となります。

分析しないと心に残る 記憶と記録

日本酒を飲むときは必ずテイスティングするという生活が続いていたある日、一度だけテイスティングをせずに飲んだら翌朝にまで記憶が残ったということがありました。

分析して言語化しないことで、言語化されていない香りと味わい、テクスチャーの記憶が残り続けたのです。それは心地よく、多幸感さえもたらす記憶でした。この感触は、夢の中で味覚・嗅覚が再現される様子に似ていました。

一方で、往々にして「分析することで記憶が残らないと」いうこともあります。分析した結果は記述すればずっと記録として残りますが、心の記憶は残らないのです。

テイスティングの技術

どうしてこうなるのか。

分析することで心の第一波をないがしろにしてしまうからではないか、と考えました。

香りをかぎ、口に含み、飲み込む。味わって見えてくる情景。れが心の第一波です。

この波をさっさと通り過ぎ、香りと味を分析する。テイスティングに慣れてくるとこのように行動しがちです。

一般的には、テイスティングはこういった流れで行います。まず、味と香りを要素に分割し記述します。それを統合し総合的なコメントとして記述します。香りや味わいを伝えるには、それらを言語化することが必須だからです。

スローなテイスティング

このような作業を続けていると、自分がマシンになったような気分になることがあります。

味覚センサーでもできることを行うのがテイスティングのあるべき姿なのでしょうか。人間だからこそできるテイスティング方法があるのではないでしょうか。

それは「スローなテイスティング」だと、私は考えます。

酒を口に入れる。まず心で感じる、情景を思い浮かべる、言語化しない。その感触をしっかり受け止め、反芻する。酒に向き合い、それを感じた自分の心に向き合う

心の第一波」です。

心の第一波をゆっくりとかみしてからはじめて分析、言語化、統合というプロセスに入ります。

最初に心で感じたことは、テイスティングコメントに書く材料にならないかもしれません。でも、分析結果を統合する過程で良い方向に働くのではないかと考えます。それはスポーツ選手が試合の前に小さな瞑想をして最高の結果を出すことに似ています。

Feel! Then, think! 感じろ! それから考えろ!

これが私の心がける「スローなテイスティング」です。


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日本酒コンシェルジュ🍶Umio

日本酒ジャーナリスト、日本酒コンシェルジュ。京都で感動するほどおいしい日本酒に出会い、その魅力にとりつかれる。日本酒イベント「町家でお酒を楽しむ会」、「日本酒レッスン」で日本酒とそれを支える文化を伝える活動を実践。認定きき酒師、国際きき酒師、酒匠。家訓は「いつも笑顔で、素直な心、食いしん坊ばんざい!」。

京都、東京、高松 https://umio.net

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