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7. 怖くて仕方がなかった|酒造家 藤岡美樹さん インタビュー

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

怖くて仕方なかったけど、一本やってみた

— 低いアルコール度数で原酒を造ることは難しいと聞きましたが

低いアルコール度数で原酒を造ることは難しいです。醪の管理をきちんとしていないと発酵が止まってしまったりしますし、単純に度数が低い状態で絞ると、香りが変わってしまったり、リスクもたくさんあるので、そこを見極めて作っていくというのは、大変難しいです。

ずっとつきっきりでした。

はじめてなので、やっぱり分からないところが多かっですね。それで、毎日分析をしながら、経過簿(醪の状態を分析したものを記録したもの)と醪のタンクとにらめっこしながら、ずっと造っていましたね。

熟練の杜氏さんはある程度間隔を開けて分析したりするのですが、私は一年生だったので、毎日分析しました。

もう、生きた心地がしない一ヶ月でしたね。

仕込中は、例えば麹をつくるにしても、自分の思っている麹にするにはどうしたらいいかとかがわからないですから、夜に何度も醪を見に行ったりしました。仕込中はほとんど家に帰らずにいるような感じでした。

だけど、はじめてタンク一本全部作って、世の杜氏さんたちのおっしゃっている意味がはじめて分かりました。

はじめて全部造ってみたら、「ああ、こうやったらもっと良くなるんだ」とか、「ああ、こうしたらこうなっちゃった。失敗してしまった」ということが分かるようになって。

やる前は怖くて怖くてしょうがなかったんです。でも一本やってみて得られたことがあって、机上の理論と実際やってみる現場でわかったことすり合わせができて、すごく勉強になりました。

自分で酒造りをしてはじめて理解できたこと

— 例えばどういうことですか?

例えば、お米。日本酒の原料はお米で、農作物が原料なので、毎年必ず同じものが入ってくるわけではないんですね。でもお酒は同じ味にもっていきたい。そうなった時に、その方法は一つじゃないんです。正解がないんですね。

いろんな方法で軌道修正しながら、目指すところにもっていくんです。その方法が、例えば原料の配合を変えることだったり、麹をつくる方法だったり、醪の温度管理だったりするんですが、今まで杜氏さんにいろいろ教わっても、実は全然分からなかったんです。ほんとうの意味で理解ができてないんですけど。

自分がやってみるとやっぱり失敗するんですよね。麹の水の吸わせ具合を33%にしたいと思っていても、やってみたら38%だった。じゃあ、その38%のものでどうやっていい麹をつくろうかと、その軌道修正を始めるんですよね。

水を吸わせすぎるという失敗をしたからこそ、どこでそれを軌道修正していかなければいけないかが分かるとか。

目の前で本当にやってみたからこそ、自分が必死こいて軌道修正しなきゃいけないと思った時に、いままで杜氏さんやいろいろな方がおっしゃっていたことが、引き出しからどんどん出てくる。

「は!これはこういう意味だったんだ!このことを言っていたいんだ!」みたいな発見をすることが、毎日毎日ありましたね。

— 軌道修正の方法はたくさんあるということですが、どうやってその中から一つを選ぶのですか?

選ぶのはもう、自分が「これだ!」と思ったやつで行くんですよね。これを選んだから、その次の軌道修正はこっちに行く。右回りで到達することもあるし、左回りで到達することもある。遠回りして行ったり、もっと短いところを行ったりする。

この軌道修正の連続、その技術が日本酒っていっぱいあるなー、って。

日本酒造りは工程がすごく複雑なので、いろいろなところで「見極める」経験がないと、一本のものが造れない。例えばリキュールだと工程が1個なので、そこの「肝」が一個わかれば、行きたいところに行ける。でも日本酒には「肝」がいっぱいあるから、いろんな「肝」を知っていないと、行きたいところに行けない。