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他の酒蔵に学ぶこと、こだわりを捨てること|新澤醸造店蔵元杜氏・新澤巖夫さんインタビュー 後編

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

前編に引き続き、新澤醸造店蔵元杜氏・新澤巖夫さんのインタビュー、後編は酒造りの現場について語っていただきました。

現場に答えがある

淡々と努力を積み重ね、技術を上げていく、造るお酒の品質を上げていく。この姿勢を支えるスピリットは何か。新澤さんに聞きました。

―― 淡々と努力を積み重ねていくこと、地道に続けていくことは大変なことだと思います

新澤: 大切なのは、「造り手の心を鍛える」ことです。

―― それはどういうことですか?

新澤: 人のせいにしないということです。現場でお酒のおいしくないとすれば、扱っている飲食店さんが悪いとか、日付を古くした酒販店が悪いのではないのです。そこに出した蔵元が悪いのです。問題の根は必ず蔵元にある。だからその可能性を徹底的に潰していくのです。

―― どうやってその可能性を潰していくのですか?

新澤: とにかく現場でよく飲みます。現場には答えがあるので。

現場で流れている酒を見て、「あれ、今流通が遅いな」とか「早いな」とか。遅いのだったら少しフレッシュなものを出そうか、回転が早くて渋すぎた状態で出されているのだったら、もう少しこなれたものを出そうか、とか。

そういう形で微調整をし続けています。ずっと運転し続けているので、「止めちゃいけない」という感じです。

他の酒蔵に学ぶ

新澤さんとスタッフの皆さんの謙虚な姿勢、他の酒蔵のから学び取る姿勢。それを支えているのは、「日本酒業界全体を上げていこう」という酒造りに携わる方々の姿勢です。

新澤: なにより、うちの蔵は震災でなくなって移転しています。新しい蔵は70km離れたところにあるんです。だから酒造りをしているのは、新しく採用した酒造りの経験が3年未満のスタッフばかりです。これは相当頑張らなくてはいけない。

だから、みんな必死に勉強しています。アルバイトも含めて全員で他の酒蔵を見に行って勉強しています。例えば事務員の場合は「事務所見せてください」って言って、全部勉強しています。

蔵をただぐるっと回っても見えないものはたくさんあります。たとえば磯自慢さんの寮を見せてもらって、「これくらいの広さだったらいいんだな」ということを参考にさせてもらったりしました。

―― それぞれ自分の視点で学ぶということですね

新澤: そうです。だからみんなで行くんです。僕らが見るのは、その蔵が有名だとか無名だとかではないです。「ここは掃除が特にきれいだ」とか、そういうところを見るのです。これはすごくいいことなのかな思います。

―― 他の酒蔵は競争相手なのに、そこまで見せてもらえるものなのですか?

新澤: それは、お互いに、業界をみんなであげていこうという意識があるからだと思います。それからやはり「自分の味を大事にしたい」というところがベースにあるから尊敬しあっている、ということもあります。

100年、200年という歴史があってその上に我々がいる。そういうことを非常に大事にしているから、謙虚になれるのだと思います。

守っていくことと変えていくこと

新澤: でも、歴史を大事にするということは、都合のいいことばかりではないんですよ。たとえば、酒造りの期間中一日も休みがない、なんて一体誰が決めたんだ、ということです。昔の出稼ぎ労働ではそれがよかったかもしれない。でも、今の人が新卒で入ってきてそれは通用しないです。

だからうちは週休二日ででもいいようにしています。そのためにスタッフを増やさなくてはいけない。だからスタッフが40人いるんですよ。40人というとすごく大きな会社にみえるけど、週休二日制出し、産休をとっているスタッフもいるし、有給休暇ももちろん取っているから倍の人数が必要だった、というだけです。

大切なのは、結果を出すこと

新澤さんの仕事のスタイルは、私がイメージしていた職人像とは違ったものでした。大切なのは結果を出すこと。そのためには力を込めすぎない、でも力を抜かないことが大切だといいます。

新澤: だから、休み無しで働くストイックさとかにはこだわってないんです。結果が良ければそれでいい。がっちり目を見開いて、「寝るな!」といって鍛えた酒よりも、十分な睡眠を取ってリラックスして心身ともにコンディションのいい状態で造った酒のほうが、いいものになりますよ。

日本酒業界は絶えず変化しています。その波をしっかり感じつつそれに惑わされない強い心を持つこと、間違った方向に行きすぎないこと、こだわりすぎないことが大切です。

こだわりすぎると、こだわることに酔ってしまうんです。バランスを失ってしまうんですよ。そういうバランス感覚ってとても大事だと思います。それは何かって言うと、センスですね。センスというと身も蓋もないかもしれないですけど、でもそれは努力である程度カバーすることができるんです。

―― どうやってカバーするのですか?

新澤: 失敗してみるということです。失敗したくないからこだわるのです。こだわると酔っていく。だから、そのこだわりを捨てたほうがいい場合もあります。

「絶対に俺の酒造りはこうじゃなくてはいけない」という考えはないです。でも、「こういうお酒を造るのにどういうアプローチをしていけばよいのか」という選択肢はいくつか出てきます。

その選択肢、プラン1、2、3の中で、今の人材に合わせたプランを採用する。飽きっぽい人だったら前半に力を入れることができる酒造り。ベテランでバランス良くやれる人だったら、バランスよく進めることができるプランにするんです。

コンペティションは心の勝負

新澤醸造店のお酒は、世界一の日本酒を決めるコンペティション Sake Competition で上位に入っています。(このインタビューのあとに発表された2016年の結果でも、純米酒部門での一位授賞を始め3部門で5品目が入賞しました)

Sake Competition 2016

―― 「究極の食中酒」のコンセプトは変わることはないのですか?

新澤: そうです。そこはぶれません。

でも流行はありますよ。「もっと味を出したほうがコンペで上位に入れる」という時もあるんですよ。

そこが、心の勝負なんですよ。遠くのメロンを取ろうとしている時に近くにバナナがあったらつい取ってしまうじゃないですか。それを取らない度胸があるかということ。

だって、賞を獲らなくても売れる銘柄が一番強いんですよ。でも技術者としては賞を獲りたいというのもあるし。

いちばん大事なのは、そういうものにぶれない力強さを持って、逆に「俺の酒が一位だ」と言えること。そういう人が一番強いですよ。

伯楽星

インタビューを終えて

インタビューの中で、とても濃厚で明確なメッセージを受け取りました。データに裏打ちされた合理主義、淡々と努力を積み重ねる地道さ。自分たちの蔵だけでなく、日本酒業界全体をつねに考えている姿勢。その奥に見えてくる「守るために生き残る」という執念に近い思い。心に残りました。同時に、今まさに動いている日本酒業界のうねりを感じました。

スケジュールの合間を縫ってインタビューに答えてくださった新澤巖夫さん、コーディネートしてくださった NIIZAWA Prize by ARTLOGUE の鈴木大輔さんに感謝の意を表します。

参考資料

新澤醸造店のお酒のレビュー