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花観酒房の真髄は「サービス」|吉田澄男さんインタビュー〈後編〉

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

〈前編〉 京都で吟醸酒の酒房というジャンルを切り開いた

京都で吟醸酒の酒房というひとつのジャンルを作りあげた吉田さんのインタビュー後編。吉田澄男さんが花観酒房の真髄、「サービス」について語ります。

お客さんを観る

―― お客さんにお酒の味をどのように説明しますか?

吉田:
自分が飲んでみて思った味ですね。それを自分の言葉で説明します。難しい言葉は使わず、わかりやすく、端的に言ったほうがいいです。何か一つをピックアップしたらいい。余りたくさん言ってもお客さんの琴線には引っかからないんです。

―― お客さんの反応はどうしたらわかるのですか? おいしいとか、おいしくないとかをはっきり言う方は少ないですよね

吉田:
それは、飲んでるのを見たらわかります。おいしかったら酒も減るわけですし。カウンターだけの店でしたから。お客さん一人ひとり見ています。

うちはたくさんの種類を味わってもらうために一杯60ccか90ccで出していたのですが、この量だったらすぐなくなります。それが滞っているんだったら、合わないといこと。わかりますよ。目の前にいてるんやから。

―― たとえば、そのお客さんが1ヶ月後にもう一回来たときとかは覚えていますか?

吉田:
もちろん、覚えています。カウンターは12席しかないですから。

―― どういう好みかということも

吉田:
わかります。自分はパターンが決まっているから。メニューに「1杯目のおすすめ」というのがあって、喜楽長の金賞受賞酒か春鹿の斗瓶取り。

はじめて来た人で、吟醸酒の中で興味があるのはどっちか。あちこち飲んで来はる人にも、最初の一杯は甘口の喜楽長か辛口の春鹿をおすすめします。様子を見るためにね。日本酒ファンといっても嗜好の幅はそれぞれですので。

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花観酒房のメニューより

蔵元さんとの真剣勝負

―― 蔵元さんや杜氏さんがお店に来ることも多かったそうですね

吉田:
そうですね。うちにその蔵のお酒を置いてあるから来る、というのと祇園に来て日本酒の店があるから来る、というののどっちかですね。

蔵元さんが来はって、座ったらリクエスト関係なしにうちに置いてあるその蔵のお酒を黙って一杯目に入れます。蔵元さんによっては自分のところの酒の味を、出荷したあとの味を飲食店で確かめたいという人と、自分のところの酒はいつでも飲めるからいい、という人に分かれます。

私は、自分の蔵の酒がどのように回って、ちゃんとイメージ通りの味になっているかを見るほうが賢明だと思います。だから、一杯目は黙っていてもその蔵のお酒を提供いたします。

次、二杯目。何を飲むか。これが私と蔵元との真剣勝負です。なぜかというと、自分の所以外の酒で自分が気になる酒を絶対飲むじゃないですか。

だから私は「次、何にしましょう?」しか言いません。そう言ったら、自分の気になる酒を飲みますよね。もしくは「マスター、いま気になっているのあったら出して」って言いますよね。

15年以上前に大七の蔵元さんが来はったときは、「東一」って言わはりましたね。すでに全国区の酒でした。高名な醸造技師の勝木慶一郎さんが行ってはりましたからね。これを選んだのはさすがやなと思いますよね。

―― 「マスターのおまかせ」と言われたときには?

吉田:
それは、用意しています。蔵元さんが来たら、こちらは花観酒房という自称銘酒居酒屋ですので、その蔵が意識して、その蔵が納得できるような酒を出しますね。

来ていただいて「良かった」と思われる様に、色々と手を尽くします。

合うか合わんかはわかりません。でも、「このマスター、きき酒できるんやな」と相手を満足させるような酒、隠し玉を用意しときますよね。メニューに出てるから隠し玉にはならんけど。これがお店やっている者の矜持や心意気やと思います。

サービスの楽しさ

―― いつごろからお店をしたいと思っていたのですか?

吉田:
高校生の時はですね、飲食店のアルバイトをしていました。普通の町の洋食屋さんです。サービスがしたかったというわけではなくて、たまたまでした。でも、そこでサービスをしていてよかった。サービス業って自分に向いているなあと思ったんです。はじめての仕事という分、働く楽しさがあったんでしょうね、あらためて思えば。

それが接客業、サービスだったんですね。

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高校生の吉田澄男さん

―― ホテル、花観酒房とサービスをやってきて、いちばん大切なことはなんですか

吉田:
お客さんに喜んでもらうしかないですね。これはどなたもおっしゃることです。接客やからね、楽しんでいただくのが一番じゃないですか。

「おいしかった」というより、「楽しかった」のほうがうれしい、と言わはりますよね。接客する人だけでなく、料理人もそう言いますよね。

例えば、「料理がおいしかった」というのは味覚の一つだけど、「楽しかった」というのは全体的な部分。そのほうが完成された分です。

おいしいのは部分でしかない。いろいろな部分があって、楽しい時間になります。だから、楽しいというのは人間的な部分、おいしいというのは舌の部分だけかもしれない。楽しさは五感で感じてもらっている。食べて、飲んで、見て、話しての感覚です。

店の世界観

―― 茶道では、おもてなしの準備をさとられないことが大切といいますね

吉田:
それは文化でしょうね。椿の一輪、考え抜かれた演出。おもてなしの究極ですね。

そういうのが好きやから。何をしたらお客さんに喜んでもらえるのか、相違部分ですね。でも、感覚が合わないと、お客さんの次元とこちらの次元が合わないと。

嗜好と一緒です。片方が吟醸が好きで、片方が普通酒が好きやったら噛み合わない。

―― 客としておもてなしをのすべてを受け止められていないのでは、と思うことがあります。そういうのは気づいてほしいですか?

吉田:
そうですね。それがその店の世界観ですから。でも、全てを理解してもらえることを期待しない方がいいです。期待するとがっかりします。とても。

それに応えてくれるお客さんの力量、と言ったら失礼かもしれんけど、それを感じてもらうのはうれしいですね。でも相手に課すことはできない。

分ってもらえなくても、「なんかいいな」と思ってもらえるといいのかな。

吉田澄男さん

花観酒房のあと、日本酒文化を育てたい

花観酒房を開いてから20年後、65歳になった吉田さんは店を仕舞うことにしました。「十分にやりきった達成感や満足感もあり、後は若い人たちの時代かなと想いつつ」と吉田さんは語ります。深夜までの営業で帰りが遅かったので奥様と過ごす時間を多くとりたいという思いもあったといいます。

吉田さんは、もともと文章を書くのが好きでお店でお客さんに伝える表現を常に考えてきたこともあって、文化である日本酒を育てたいという思いから、日本酒に関する文章を書いています。

日本酒コンシェルジュ通信でも「酔いの余白」と題したエッセイを連載していただいています。

(このインタビューは2017年2月に行われました)