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【書評】松下明弘『ロジカルな田んぼ』

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全国で初めて山田錦の有機・無農薬栽培に成功

著者の松下明弘さんは、1996年に全国で初めて山田錦の有機・無農薬栽培に成功した稲作農家です。山田錦の品種登録(1936年)から60年もの間、誰も成功していなかった有機・無農薬での栽培を成し遂げた伝説の稲作名人です。しかし、60年間、誰も成し遂げられなかった理由は、単に山田錦の栽培が難しかっただけではないようです。

松下明弘さんという人物

松下さんは、1963年に静岡県藤枝市で農家の8代目として生まれ、高校卒業後に就職し、その後、高校の農業科で実習助手として働きます。24歳のとき、青年海外協力隊としてエチオピアへ渡り、現地で農業指導等を行い、2年の任期を終え、1989年に帰国します。再就職をした後、1996年の29歳の時に農家になります。

消えた米の多様性

戦前は全国各地でその土地に合った様々な品種が栽培されていて、その土地の地域性が存在していました。しかし、化学肥料や農薬が普及し、その土地に合った栽培方法を考えないでも栽培出来るようになり、多様性は消えてしまいました。それは現代も続いていて、松下さんは、それを「考えない農業」と言って、現代の農業に疑問を抱いています。

考えない農業

化学肥料・農薬を使用するのは、現代の農業では普通のことです。国や県もそうやって指導をし、栽培のスケジュール等もマニュアル化しています。松下さんは、何も考えずにマニュアルに従い、その意義や目的を忘れ、慣習的に化学肥料・農薬を大量投入する農業に警鐘を鳴らしています。

考えた結果が有機・無農薬

松下さんはいわゆる慣行農業に疑問を持ち自ら試行錯誤した結果、有機・無農薬にたどり着きました。また、その思想の裏には、人間が介入しすぎて、ひ弱となった植物に対して健全な農業をしようする思いもあります。

農業における農薬は人間での予防的な薬ですが、松下さんは病気にもなっていないのに「薬」を使うことに疑問を抱いています。本来ある免疫力を低下させてしまっていると指摘しています。

山田錦の魅力

山田錦は、現代品種と比べると野生の本能を残しています。稲穂が実ると脱粒したり、雨が続くと発芽穂になったりして、栽培が難しい品種です。松下さんはそこに生命力を感じ魅力的に思うそうです。

山田錦は背が高く、葉っぱの上に稲穂が出るので、キリンのような首になり、風が吹くと稲穂の波が揺らぎます。現代品種と違い籾殻の毛が長く、夕陽にあたって黄金に輝く姿も魅力的だと、松下さんは言っています。。

固定概念に刺激を与える一冊

この本は田んぼや有機・無農薬栽培の内容となっていますが、松下さんが伝えたいのは、有機・無農薬が大切だということではありません。

人間も自然の循環の中で生きていて、その循環をいじくり回すのは健全ではないと松下さんは言っています。その結果、有機・無農薬栽培にたどり着いているわけです。

今の私たちの生活の中では有機・無農薬の方が特別だという感覚がありますが、自然の循環の中では当たり前ではないのです。そう言った固定概念に刺激を与えるたといった意味でも、この本は田んぼに興味がある方以外にも読んでいただきたい一冊です。

ロジカルな田んぼ (日経プレミアシリーズ)
松下 明弘
日本経済新聞出版社
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