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ローカル・サケ・キャノンボールを続けてわかったこと 日本酒の地域性 2018

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

2018年の日本酒コンシェルジュの活動を振り返ると、日本酒の地域性ということをずっと考えていたなあと思います。

今年は2つの旅をしていました。全国各地、それから台湾、メキシコ、ブラジルの酒蔵や圃場、酒場をめぐるリアルの旅。そして、酒に向き合って心の中ではじまる旅

「心の旅」は、おもに去年の10月から始めた日本酒の地域性を探るワークショップ「ローカル・サケ・キャノンボール」で繰り広げられれました。このワークショップ、おかげさまで1年間続けることができました。参加者の皆さん、一緒に運営した日本酒コンシェルジュのPonさんに感謝です。

ネオ地酒という考え

2015年の秋にはじめて、日本酒の地域性について考えたことをまとめました。それから3年、蔵元さんや農家さんをはじめたくさんの方にお話をお伺いし、たくさんの方と議論し、考えました。

このとき、頭にあったのは「ネオ地酒」。よりニュートラルに、地域の酒としての「地酒」を捉えようとしました。

日本酒の香味には地域性があり、それらはテロワールや食文化の地域性を反映したものである。地元の米、微生物、水、人で酒を造る「地酒」「地元の味の酒」を再構築するムーブメントが広まっている。それが「ネオ地酒」という考え方です。

日本酒テロワールキャノンボール

実際に飲んでもいないのに、そう語ることはできるのか。飲むことで日本酒のテロワールを感じることができるのではないか。その問いかけに自ら答えるために「日本酒テロワールキャノンボール」というワークショップをはじめました。

食中酒として酒に向き合う

ワークショップではたくさんの発見がありました。たとえば、酒の中に食べ物のための場所が空けてある酒。宮城県の純米酒をテイスティングして、「このふんわり感はなんだろう?」と感じることがありました。参加者の多くが同じ感覚を持っていました。

そこで、塩味とうま味が凝縮したその土地の食べ物と合わせると、酒が完成! 感激のあまり声を上げたこともあります。この発見を参加者と共有できたのは大きな成果です。

「テロワール」という言葉

縁あって、台湾で開催された「食と農業の倫理学会」で、このワークショップと日本酒の地域性について発表したことがさらなる進歩に繋がりました。発表の後、カナダの研究者からいただいたアドバイスは「テロワールという言葉を使うべきではない。それはワインの文脈の言葉で、日本酒には日本酒の文脈での言葉があるはずだ」というものでした。

「テロワール」とはワインに現れるブドウ畑の気候や地勢、土壌の個性[1]を表します。フランスで育まれ、AOC(原産地呼称制度)の基盤となっている考え方ですが、マーケティングの側面が大きいという見方もあります。

最初は熟考することなく「テロワール」という言葉を使っていました。しかし、このときのアドバイスをきっかけに、日本酒の地域性の基盤について再び考えるようになったのです。

米とブドウ

ワインにおけるテロワール主義の考えの背景にあるのは、ブドウは土壌と気候の影響が大きいと考えられてきたこと、ブドウは採ってすぐにワインに醸す必要があること、だから付加価値をつけるにはテロワールをアピールすることが有効だったことなどです。(もちろん、ワインの品質管理が商人から造り手に戻された歴史など、多くを考慮に入れる必要はありますが、ここではあまり立ち入りません)

同じように、米は土壌を反映します。しかし、ブドウとの大きな違いは、運べることです。歴史上、京都(洛中)、灘などの酒処は「米が集積する場所」だから成立しました。「米の集まるところで酒を造る」ことは「いいブドウができる土地でワインを造る」ことと大きな違いがあります。

このことからも、土壌を原意としてワインの個性の背景を表現する「テロワール」という言葉は日本酒にはそぐわないのです。日本酒の歴史と違った文脈で育まれたこの表現をそのまま日本酒に当てはめるべきではないのです。それは国際的な誤解をうむことになるでしょう。日本酒の文脈を世界に広めるべきなのです。

ローカル・サケ・キャノンボール

このことに気づき、私たちは「日本酒のテロワール」という言葉を使うのをやめました。ワークショップの名称には「ローカル・サケ」という用語を採り入れました。日本酒の地域性を表す言葉としては「地酒」という表現がより適していますが、「大手の酒に対する地方の酒」というニュアンスが強く、人によって捉え方も違うので、ニュートラルに「Local Saké ローカル・サケ」としたのです。

ローカル・サケの本質は地域の循環

「ああ、そういえば『ネオ地酒』という言葉を使っていたこともあったな」と思い出しました。ということで話を戻します。

1年と2ヶ月、ワークショップを続け、全国を回って多くの方から話を聞いてたどり着いた新しい仮説はこうです。

  • 日本酒はその地方の食文化の中にある
  • 日本酒の地域性の本質は地域の中でのつながりである

日本酒はその地方の食文化の中にある

ワークショップで体験したのは、単独ではおとなしいけど、地元の食べ物と合わせると輝く酒。そして地元の料理とよく合うのです。これは、酒販店さんに「地元で売れている酒」を教えてもらい、それを選ぶことで見えてきました。それから、「とは言っても全国おなじハンバーグを食べている。郷土食は行事食にしか残っていないのでは」と思っていたのですが、味付けや独自の食材、料理法など、地方の味はまだまだ健在でした。料理に地域性はうっすら残っており、おなじように酒にも地域性がうっすらと残っているのではないかと考えました。

日本酒の地域性の本質は地域の中でのつながり

オール地元産」の酒がトレンドです。水はもちろん米だけでなく酵母や麹菌も地元産でそろえる酒です。

オール県産、といっても、県内で気候風土の違う別の地域の米を使っていたり、他所から持ってきた品種だったりすることもあって、マーケティングの粋を出ないケースも多く見られます。

そもそも、米を別のところから集めてきて酒を造るという歴史的背景を考えると、「県産米」の意義はどこにあるのでしょうか?

それは、「つながり」「循環」であると考えます。酒の原料である米を作る農家とのつながりを持ち、支え合い、農業、酒造業、飲食業、消費者、そして周辺産業、これらの循環をつくるリーダーとしての酒蔵の役割が本質だと考えます。

地方の酒蔵は地元のリーダーとしての役割を担ってきました。一旦は失われたこの循環を新しい形で取り戻しつつあるのが、いまの、そしてこれからの地方の酒蔵の形になるのではないでしょうか。「地元」よりも「循環」が本質なのです。

日本酒コンシェルジュは日本酒の環のストーリーテラー

「日本酒テロワールとはなにか」から始まり、「テロワール」という言葉を見つめることで、かえって日本酒の地域性の本質に近づいたのではないかと思います。ワークショップを続けることで、さらに日本酒の地域性を探り続けたいと思います。

そして、日本酒コンシェルジュとして、その環の中で生産者と消費者とつなぐ「ストーリーテラー」として貢献していきたいです。


  1. 原田喜美枝. 日本のワインとワイン産業. 商学論纂(中央大学)第55巻第3号(2014年3月) ↩︎