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杉錦 菩提酛|日本酒テイスティングノート

日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio 日本酒コンシェルジュ 江口崇 aka Umio

菩提酛とは

日本酒を飲み進めると、ラベルに「菩提酛」という文字を見ることがあるのではないでしょうか。菩提酛とは日本酒の発酵のスターター、酒母の作り方のひとつ。室町時代に開発され、現在の日本酒造りの基盤となっている技術です。

水に生米と少量の炊いた米を入れ、乳酸発酵させてできた「そやし水」を酒母に使います。このことから「水酛」と呼ばれることもあります。

菩提酛は温暖な時期の酒造りに使われた酒母で、冬場の生酛と並んで代表的な酒母技術でした。しかし17世紀に徳川幕府が酒造統制の一環で冬期の寒造り以外を禁止したことで、次第に使われなくなりました。その後大正期にはほぼ衰退してしまいます。(ドライイーストが普及するまでは、農家でのどぶろくづくりやパン種として菩提酛・水酛が使われつづけました。)

菩提酛の復活

20世紀の終わり頃から日本酒づくりでの菩提酛復活の動きがありました。1984年頃に岡山の酒蔵が文献を元に菩提酛での酒造りの復活を試み、1986年に商品化されます。

1996年には、奈良県で「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」 が発足、1998年には菩提酛を使った酒が復活しました。菩提酛という名前は、奈良菩提山正暦寺で造られていた「菩提泉」という銘酒の酒母から来ています。「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」 ではその正暦寺で、毎年そこの水と菌を使って酛たて(酒母をつくること)を行っています。今年はその菩提酛をつかって8つの蔵が酒を醸しました。

現在、正暦寺の菩提酛を使う蔵のほか、岡山県・千葉県・奈良県・静岡県・群馬県などで菩提酛・水酛をつかった酒が醸されています。

杉錦の菩提酛

菩提酛を使った酒の味わいは多様ですが、どっしりした重みのある味わいのものが多い傾向にあります。杉錦の菩提酛は、甘みが少なくライトな印象です。ただ、香りは複雑で、しっかりとしたうま味があります。

蔵元の杉井均さんによると「料理と合わせるために、あえて辛口にした」とのことです。これは杉錦のスピリット。酵母は無添加、野生酵母は糖を食べにくい傾向にあるので、辛口にするのには苦労があったそうです。

菩提酛は30度程度の気温の夏場に作りやすいですが、杉井酒造では冬場に電球を使って温めながらそやし水を作っているとのこと。そうすることで夏場よりも温度のコントロールがしやすいからです。

静岡県の名物、桜海老を使った水餃子と合わせました。桜海老の乾いたニュアンスとうま味が、酒のドライな印象とうま味によく合いました。料理と楽しみたいお酒です。

杉錦 菩提酛 と水餃子

上方日本酒ワールド2018にて。


テイスティングコメント

美しい山吹色。上立ち香は炊いた米。軽やかな口当たり。しっかりとした酸味は乳酸系。乾いた細い酸味。甘味は少なめ。口中香は炊いた米、ほのかにはちみつの香り。余韻はやや長く、酸味と米を感じる味わい・うま味。炊いた米と干し草の香り。

桜えびの入った静岡水餃子と合わせた。桜えびの乾いたニュアンスとうま味と酒が同調した。

(テイスティング日: 2018年4月28日)

ラベル情報

商品名杉錦 菩提酛
醸造元杉井酒造(静岡県藤枝市)
特定名称・種別
原材料米、米麹
酒造年度2015BY
原料米静岡県産誉富士100%
精米歩合70%
酵母酵母無添加
仕込み水-
アルコール度数13-14度
日本酒度+10
酸度1.9
アミノ酸度-
製造年月30-04
杜氏-
その他情報一回火入れ

杉錦 菩提酛

参考文献

  • 住原則也, 清酒のルーツ,菩提 (ぼだいもと)の復元 ―奈良の「産」「官」「宗」連携プロジェクトの記録―, Agora: Journal of International Center for Regional Studies, No.4, 2006
  • 秋山 裕一, 若井 博子, 大内 弘造, 熊谷 知栄子, 大塚 謙一, 水翫に関する生態学的研究, 日本釀造協會雜誌, 1980, 75 巻, 4 号, p. 314-319
  • 伊藤 一成, 辻 麻衣子, 三宅 剛史, 米麹を用いた古くて新しいそやし水製造, 日本醸造協会誌, 2015, 110 巻, 10 号, p. 670-677
  • 河合 弘康, 日本のパン種-酒種-の起源とその発酵特性, 日本醸造協会誌, 1996, 91 巻, 5 号, p. 311-317