/ 酔いの余白

お客様から戴いた日本酒の八つのいい言葉・後編〈酔いの余白〉

はんなり酔吉 はんなり酔吉

←前編はこちら

前編から続きます。

酔うということ

「酔う」とは、「自分に中の存在する『もう一人の自分』を引っ張り出す作業」

――放送作家 小山薫堂/東京の割烹店のご主人より

和食の実力店がひしめく街、京都には各地から料理人が訪れます。いわゆる「季節のはしり」や旬の素材・食材や料理を求めての料理店巡り、京の台所の錦市場や、そこのある包丁の有名店「有次」が目当てです。小山薫堂氏も定期的に京都を訪れるといいます。
 
さまざまな分野に多彩な才能と顔をもつ多能な小山氏は放送作家・脚本家で映画の「おくりびと」やテレビの「料理の鉄人」で有名です。京都との関わりも多く「京都観光おもてなし大使」や「京都造形芸術大学副学長」を務め、最近では下鴨神社近くの老舗料亭「下鴨茶寮」の経営も手がけています。また、「料理マスターズ」制度の審査委員でもあり、飲食誌「dancyuの一食入魂」コラムでもお馴染みです。
 
酔わなずとも充分に何人もの自分を引っ張り出していますが、「自分の心の中を観察して掘り出す」ことが好きなのかもしれません!

あるコミュニーション学の先生のよると「人間は普段1.5人ぐらいの考え方が出来るが、潜在的には5人分ぐらいの考え方が眠っている。飲酒はその『タガ』を外してコミュニーションを活発にし、はじけたアイデアを生む可能性を秘めている」そうです。なるほど! 冒頭の言葉は頷けます。

「酔い」は計画的な誤算である

――ソムリエ 木村克己/東京の割烹店のご主人より

ソムリエ・木村克己氏は、第一回国際ソムリエコンクールの初の日本代表で4位に輝いたさきがけで、「きき酒師」呼称制度を創設したSSI(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)の初代会長でもあります。
 
ワインも日本酒も他の致酔飲料も、所詮「酔い」を楽しむために飲むわけですから、計画的に飲まなくもよいのでしょう!! ただただ、深酒だけは慎んだ方がよいのでしょうが、これさえも計画出来ない酒飲みの愚かさ・・・。

私の「酔う」とは、「心のひだに刺さったトゲを抜き、重いよろいを脱いで無防備になり、心地よく酔いを楽しむ時間」です。皆様の「酔う」とは何でしょうか・・・?

機械から人の手へ

この蔵は、「金属から木へ、機械から人の手へ」と戻る酒造りですね

――愛知県「醸し人九平次」の酒蔵訪問の感想を、酒処出身の秋田おばこさんより

時代と逆行する酒造り、原点に戻る酒造り、それが真っ当な酒造りかも・・・。地酒の本質は「手技・手造り・小造り」。期待と興味津々の九平次の酒。蔵元の時代を観るグローバルな眼力と胆力は新鋭蔵の強みかも。
 
2008年頃に蔵を訪問しました。ヤブタ(自動醪圧搾機)がガラス張りの冷蔵室に鎮座と、安価機械的大量生産時代に使われたであろう大型タンクを潔く始末した、広々としたフラットな一棟の酒蔵。何年後に何に変わっているか楽しみな・・・。普段はスタイリッシュな出で立ちの蔵元が、髭面長髪の作業服と長靴姿で火入れの瓶燗作業におばさん達と勤しんでいたのがとても印象的でした。

火入れは「第二の酒造り」と言われるほど大切な作業。だから蔵元自らが行っていたのでしょう。同じ酒でも、生酒はおいしいのに火入れのお酒がエッ?というお酒が結構ありますから。

「醸し人九平次」は、蔵元の久野九平治氏が東京から地元に戻り、1997(平成9)年に立ち上げた平成のセカンド・ブランドです。世界の日本酒をグローバルに俯瞰した久野氏の、時代を観る戦略と日本酒愛は益々の期待大です。

久野氏の行動力には目をみはるものがあります。「米を育てる事からの日本酒造り」を目指して、2010年からの兵庫県西脇市黒田庄での山田錦の自家栽培、その後の農業法人アグリ九平治の設立。2015年からは「日本酒とワインのMIX」を求め、フランス・ブルゴーニュ地区でのワイン醸造へのトライ。「無料出張日本酒セミナー教室」を実施しているのは、知識や技能を身に着けることで「日本酒に対する新たな視線・日本酒選び・日本酒の楽しみ方が拡がる」という信念から。

過去の時代の酒造りを顧み、次々と次代の宿題に取り組み、孤高に理想の醸造界を見つめ、溢れる行動力に眼が離せない九平次です。

Next One

チャップリンは、「一番好きな自分の映画は?」と問われ「次に作る映画だよ!」と答えた。いわゆるチャップリンのNext One。

――京都出身の某映画会社の役員様から

自分の作った映画は、みな愛しく順番など付けられません。だから、次に作る映画がNext Oneなのでしょう・・・。

没後40年を経て、今も世界で愛される喜劇王チャップリンならではの英国風エスプリです。

マスターの一番好きな日本酒は何ですか? とよく聞かれます。

困りますが、(現役中は)商売柄、立場上、銘柄を答える事はありませんでした。そんな時は、「次に好きになるお酒です」。お客様は「???」の顔。でも、これはお客様を判断して答えないと、気分を害してしまいますので、ご用心を! その後に「チャップリンのNext One」のお話をお伝えしております。

今だけ、ここだけ、あなただけ。

「今だけ ここだけ あなただけ」のお酒

――いきさつ不詳

過日、思いがけずにこんな言葉が帰ってきました。

京都での吟醸酒のお店の魁「馳走いなせや」にお伺いした時のことです。たまたま、古くからの知り合いのご主人、髙田氏がいたので昔話しに花を咲かせていると、「今だけ ここだけ あなただけ」の言葉を覚えているとのことでした。髙田氏が私の店にはじめて来た時に、この言葉とともにおすすめのお酒を出してもらったとのこと。

二十数年前のことですから覚えておりません。思い出そうとしてもお酒も入りアル中ハイマー状態ですので、まったく記憶に有りません・・・。

「情報は発信した人に帰ってくる特性がある」と言われますが、その時の言葉を覚えていてくれたのは感激です!

よくよく話を聞けば、「今だけ ここだけ あなただけ」の言葉とともに永年温めて来た日本酒の商品企画があって、実懇にしている数軒の酒蔵にお願いしてお店のオリジナル酒を作っているとのこと。なんと、そのラベル名は各蔵共通の「○△□」で、そのまま「まる・さんかく・しかく」と読むそうです。

「○△□」に、お客様のお好きな言葉をあてはめてもおもしろいし、ジャケ呑み(ラベル呑み)もありそう。ピクトグラム的なラベルなので、外国人には覚えやすく興味を惹きつけます。お客様の想像する名前の「今だけ ここだけ あなただけ」のお酒として楽しめます!

試飲しましたが、ご主人の永年の経験が生かされたコストパフォーマンスの高い◎の「まあるいお酒」で唯一無二の酒でした!!これから各蔵数銘柄の新酒が出揃うそうですが、言葉と想いや情熱が20年も熟成され出来るお酒は、間違いなく幸せなお酒です。

この話を聞いていたカウンター席の隣のお嬢さんも「私もおでんラベルのお酒飲みたい!!」と。おでん? ・・・なるほど! 今後どんな愛称がつくのかも楽しみです。

思いがけずに「言霊」となり、言葉が生きているのを実感した、今宵の「いい酒 いい客 いいお店
でした。

今年もいろいろなお店で、どんな「日本酒」や日本酒愛に満ちた「いい言葉」や「日本酒文化」に出会えるか楽しみです!!


このコラムの著者、はんなり酔吉さんのインタビュー記事です